打撃と脳
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スイングは良いのにあたらない!

「スイングは良いけど当たらない」ことに悩む選手・指導者は、 数多く見かけます。

このような選手のほとんどは、ティーバッティングなどの、 止まったボールや遅いボールでは、大飛球を打つことができますが、 実戦形式などの動く速いボールでは、空振りや凡打の山を築いてしまいます。

一般的に、「スイングが良い」という表現は、 「速いスイング」、「良いフォーム(身体の動きの連動)」など 力強いスイングを指して使われることが多いかと思います。

そのため、スイングが良ければ、 「たまに」目の覚める一発を打つことはできますが、 その頻度は低く、あてる確率の高さとは必ずしも結びつきません。 こういった選手には、「あとは実戦であてるだけ!」と、 さらにフォーム改善の指導が行われることは少なくありません。

しかし、果たして「あてる」ために、 フォームを変えることが最善手でしょうか? そもそも「あてる」のが上手い人は、何が優れているいのでしょうか?

「あてるのはセンス」と現場で言われることがあります。 この言葉を「センス=才能」と解釈し、 途方に暮れた人がいるかもしれません。 本当に才能であれば、指導者もスポーツ科学もお手上げです。

しかし、スポーツ科学的に解釈すると、 この言葉は、あてるのがうまい人の特徴を表し、 かつ、鍛えるべき能力を表すかなり的を得た言い方です。

センス(sense)とは、そもそも感覚です。 具体的には、 「周囲の情報」を認識する視覚、 「身体の動きの情報」を認識する筋感覚、 など、を指します。

ボールにバットをあてるには、 周囲の情報、 すなわち、高速移動するボールがどこにあるかを、 正しく認識する視覚が不可欠です。

また、その動くボールに向かって、バットを運ぶためには、 身体の動きの情報、 すなわち、 タイミングよく、正確に、ボールに向かってバットが動いているかを、 正しく認識する筋感覚が不可欠です。

このような観点から「あてるのはセンス」という言葉を解釈すると、 あてるのが上手い選手は「感覚に優れている」 あてる能力を鍛えるためには「感覚を鍛える」 と、あてる能力を伸ばすための具体的な戦略が見えてきます。

あてるためにフォームを改善することは重要です。 ただし、ティーで思うように正確に打てる「良いスイングの選手」であれば、 フォームが1番の問題ではないのです。

むしろ、 「思った位置」にはスイングできる(フォームは良い)けど、 「思っていたボール位置(動くボール位置の認識)」がそもそも間違っていたり、 「思っていたタイミング(動く身体位置の認識)」で動いていなかったり、 といった、感覚を取り込み、身体を操る脳に関わる問題と捉えるべきです。

この連載では、「スイングは良いのに当たらない」 あるいは「ミート力を向上させたい」という課題を解決するために、 選手や指導者があまり意識してこなかった 「感覚(センス)」の役割や限界、またその解決方法を、 スポーツ科学の視点から掘り下げていきます。

次回は、「野球の打撃の感覚の中でも 特に重要だと言われている『視覚』が、 本当に打撃の成功を左右しているのか?」というテーマで詳しく解説します。