打撃と脳
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野球はボールを「見ながら打つ」ではなく、「予測して打つ」

超スローで飛んでくるボールを手で掴むことは誰でもできます。 でも、ピッチャーが投げた速いボールをバットで打つのは、 ほとんどの人にはできません。 どちらも「飛んでくるボールを捉える」という点では同じなのに、 なぜ野球の打撃はこんなに難しいのでしょうか?

答えは「時間」です。

野球の打撃では、ボールがピッチャーの手を離れてから バッターの手元に届くまで、わずか0.4秒しかありません。

まばたき2回分くらいの時間です。

この短い時間で、 「見て → 判断して → スイングする」 ことは、人間には不可能です。

じゃあ、どうやって打っているの?

実は、バッターは ボールを見てから反応しているのではなく、 「こう来るだろう」と予測して、スイングを始めています。

これは研究でも確認されています。

例えば:

  • ボール軌道の後半を見えなくしても、打つ精度は変わらない
  • プロ野球選手でも、スイング開始後は目がボールから離れている
つまり、打者は「ボールをずっと見続けているわけではない」のです。

この仕組みを、スポーツ科学では 「事前プログラム制御」と呼んでいます。

簡単に言うと: 「来るボールを予測して、スイングを前もって準備し、 一気に実行する」

ということです。

「ボールを見ながら打つ」のではなく、 「このコース・この球種が来るはずだ」と予測して、 準備したスイングを発動させる。

これが野球の打撃の本質です。

超スローで飛んでくるボールのように、 「見ながら調整できる」なら、誰でも打てます。

でも、野球の速いボールとスイングは、それを許してくれません。

だから、一流選手ほど、 「予測」と「事前準備」が洗練されているのです。

速球にも変化球にも対応できるのは、 予測力が高いからなんです。


前回の記事で、「視覚」と「筋感覚」という 2つの感覚が大切だとお話ししました。

でも、野球の打撃では、 「見る」だけでは間に合いません。

もっと大事なのは、 「予測する力」です。

単に「動体視力を鍛える」だけではなく、 「ボールがどう来るかを予測し、スイングを準備する力」 を育てることが、打撃力を高める本質です。

次回は、この「予測」について、 もっと詳しく解説していきます。