打撃と脳
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打撃に重要な予測② ~スイング結果の予測~

これまでのおさらい

ここまで、「ボール軌道の予測」について解説してきました。

  • 打者は「予測して打つ」必要がある(第2回)
  • 上級者は「ボールが見える前から予測」している(第3回)
  • 予測力は「知覚トレーニング」で鍛えられる(第4回)
でも、打撃に必要な予測は、実はもう一つあります。

もう一つの予測:「自分の打球を予測する」

今回は、「スイング結果の予測」について解説します。

これは、「相手(投手)のボールを予測する」のとは逆で、 「自分(打者)の動きの結果を予測する」という話です。


野球をやったことがある人なら、こんな経験ありませんか?

「打つ前に、どんな打球になるか分かる」

実際にボールとバットが当たる前なのに、 「あ、これは詰まる」 「これは良い当たりだ」 と分かる感覚です。

また、キャッチボールで、 ボールが手を離れる前に、 「あっ、抜ける」 と予感することもありますよね。

これらは、 結果を知る前に、結果を予測している ということです。

実は、上手い打者は、 「投球を予測する力」だけでなく、 「自分の打球を予測する力」も優れています。

つまり、 「自分のスイングで、どんな打球が飛ぶか」を 正確に予測できるんです。


ここで疑問が生まれます。

「打った後の結果を予測できること」と、 「今、この瞬間に打てること」は、 どう関係しているのか?

打った後なら、もう遅いですよね?

実は、研究では、 結果予測が正確な打者ほど、打撃成績も高い ことが分かっています。

なぜでしょうか?

「内部モデル」という脳の仕組み

答えは、脳にある「内部モデル」という仕組みにあります。

内部モデルの働き

脳が「スイングしろ」という指令を出すと、 この指令は2つの場所に送られます。

1. 筋肉 → 実際に身体を動かす 2. 内部モデル(小脳) → 結果を予測する

内部モデルは、指令を受け取った瞬間に、 身体が実際に動くより先に、 「こうスイングしたら、こうなる」と予測します。

つまり、未来を先取りしているんです。

なぜこれが役に立つのか?

予測があるから、スイング中に修正できるのです。

例えば、スイングの途中で、 「このままだと詰まる」 「当たらない」 と予測できれば、

脳は瞬時に:

  • スイングを止める
  • スイング軌道を微調整する
  • タイミングを変える
といった修正ができます。


ポイント:眼で見てからでは遅い

スイングはとても速いので、 「目で見て → 判断して → 修正する」 では間に合いません。

だから、脳は 予測に基づいて修正しているんです。

つまり、 結果予測が正確な人ほど、 スイング中の修正も正確になり、 バットに当たる確率が高まる ということです。

結果予測は鍛えられる?

では、この「結果予測」は鍛えられるのでしょうか?

残念ながら、 野球の打撃における結果予測のトレーニング方法については、 まだ研究が少なく、確立された方法はありません。

ただし、前回紹介した知覚トレーニングと同じように、 「予測 → 正解を確認 → 繰り返す」 という方法が有効だと考えられています。

実際に試せる方法

例えば、怪物ベースボールでは、 結果予測を鍛えるトレーニングコンテンツがあり、 実際に予測力が高まることが確認されています。

また、普段の練習でも:

  • ティーバッティングで「どこに飛ぶか」を予測してから打つ
  • フリーバッティングで「詰まるか・良い当たりか」を打つ前に意識する
といった意識を持つだけでも、 結果予測の感覚を養うことができるかもしれません。