打撃と脳
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打撃に重要な予測① ~ボール軌道の予測~

野球の打者は「予測して打つ」必要があります (詳しくは前回の記事『野球はボールを「見ながら打つ」ではなく、「予測して打つ」』で解説しています)。となると、予測の正確性が打撃成績の鍵を握ることになります。今日は、その中でも「ボールがどう飛んでくるか」の予測について解説したいと思います。

打者がボールをミートするためには、どんな球種で、いつ、どこにボールが飛んでくるかを予測する必要があります。実際、上級打者ほど予測が正確であり、予測力の高い打者はシーズン成績も優れていることがわかっています。

重要な点として、上級者の特徴は、正確さだけでなく、早さにもあります。初級・中級者は、ボールが見えてからであれば、ある程度ボールの行方を予測できるのに対し、上級者はボールが「見える前」の段階で、すでにある程度の予測ができます。では、なぜ「ボールが見える前に」予測できるのでしょうか?

実は、上級者は、ゲーム状況やカウントによって、どのような球が来やすいかを、確率的に絞り込むことができます(例:3ボールからはストレートが来やすい)。また、相手の投手の投球モーションから、カーブの時は肘が高くなるといったように、わずかな動きの違いを見極める能力に長けています。このように、上級者はボールがリリースされる前の情報も活用しながら、実際のボール軌道と照らし合わせて正確かつ早期に予測を行えることが明らかにされています。*詳細は最下部の補足を参照

つまり、「ボールがどう飛んでくるか」の予測能力の差は、経験に基づく知識や動きを見極める力の差が関係しているということです。では、このような力はどのようにすれば身に着くのでしょう?

研究の世界では知覚トレーニングという方法が提案されています。このトレーニングでは、主に前述した動きを見極める力の向上を目指します。簡単にいうと、どんな動きではどんな球種、コースに投げられやすいかといったことを、ビデオをみて実際に予測しながら学習する方法です (次回くわしく解説します)。これにより、予測能力が向上し、打撃も改善することが明らかにされています。

打撃フォームやスイングに大きな問題がないにもかかわらずミートできない選手は、「思った通りにスイングはできているが、思った場所(予測)が違っていた」ことが原因である可能性があります。このように、打てない原因は身体操作ではなく、予測のミスにあることも少なくありません。

普段から、身体操作に加え、知覚・予測を鍛えることがミート力の向上に不可欠といえます。また、早い段階で予測できれば、それだけ強いスイングが可能になるため、長打率の向上にもつながります。

補足

これらの予測は、主に以下の3つの情報源に基づいています。

1. 文脈情報(Contextual Information)投球以前の情報です。以下のような、試合状況や投手の傾向に基づく確率的な予測が含まれます。・タッチアップで得点が許されない場面では低めの球が来やすい・カウントが3ボールのときは直球が来やすい・この投手は2ストライク後にインハイ(内角高め)を投げる傾向がある

2. 投球動作情報(Kinematic Cues)投球モーション中に現れる視覚的な変化です。これにより投球内容を予測的に読み取ることが可能です。・変化球のとき腕の振りが速球に比べて遅くなる・球種によってリリース時の手首の角度が異なる・インコース・アウトコースでリリース位置が変わる

3. 初期ボール軌道情報(Early Ball Flight)リリース直後の約0.2秒間に観察されるボールの速度や軌道から得られる情報です。・変化球は初期軌道が高くなる傾向がある・速球はリリース直後から最高速度を示す