打撃と脳
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選球眼は「眼」ではない

選球眼は「眼」ではない

見る力ではなく,振るか見逃すかを選ぶ脳の判断

野球ではよく,「選球眼が良い」「選球眼が悪い」と言います.

では,選球眼とは何でしょうか.

多くの場合,選球眼は「ボール球を見逃す力」として理解されています.たしかに,ボール球に手を出さず,四球を選べることは,打者にとって重要です.

しかし,選球眼を「ボールを見逃す力」とだけ考えると,少し不十分です.なぜなら,ボールを見逃すだけでよいなら,極端に言えば,すべての球を振らなければよいからです.しかし,それではストライクも見逃してしまいます.

実際の打席で求められるのは,単に見逃すことではありません.

ストライクなら振る.ボールなら見逃す.

この両方を,短い時間の中で正しく選ぶ必要があります.

そのため,ここでは「選球眼」という言葉を,単なる眼の良さではなく,投球を見て,振るか,見逃すかを選ぶ“選球判断”として考えます.

打撃では,投球がホームベースに到達するまでの時間が非常に短いため,ボールを最後まで見てからスイングするかどうかを決めることはできません.打者は,投手の動き,リリース直後のボール軌道,球速,変化,コース,カウントなどをもとに,この球を振るべきか,見逃すべきかを短時間で判断しています.

つまり,選球判断は,視力だけの問題ではありません.ボールを見るだけでなく,見えた情報を脳が処理し,ストライクかボールかを予測し,その判断に応じてスイングを出すか止めるかを選ぶ処理です.

ここで重要なのが,「止める力」です.

選球判断では,甘いストライクに対して素早くスイングを出す必要があります.一方で,ボール球に対しては,出かけたスイングを止める必要があります.

脳科学の研究でも,野球選手は打撃場面に近いGo/NoGo課題において,反応選択が速く,不要な反応を抑える処理も強く働かせている可能性が示されています.Nakamoto and Mori (2008) は,野球特異的な刺激—反応関係を用いた課題で,野球選手において反応選択が速く,NoGo条件では抑制の強さを反映するとされる前頭部P300振幅が大きいことを報告しています.

したがって,選球眼とは,単に「よく見える」ことではありません.投球情報を脳で処理し,ストライクなら振り,ボールなら止める.この一連の処理こそが,実戦で必要な選球判断です.

次回は,この選球判断がなぜ打撃成績に関わるのかを考えます.特に重要なのは,選球判断の価値が四球だけではないという点です.