打者に重要な予測として、「ボール軌道の予測」を取り上げてきました。
今回は、もう一つの重要な予測として、「スイング結果の予測」に焦点を当ててみます。
野球をやったことがある人の中には、
実際にボールとバットが当たる前に、
どんな打球になるかイメージできるという経験があるかもしれません。
また、キャッチボールのとき、ボールが指先から離れる前に、
「あっ抜ける」という予感がすることがあります。
これらの経験が意味するのは、
我々は実際の結果を知る前に、どんな結果になるかを予測しているということです。
実は、熟練打者は、「投手の投げたボール軌道(投球)」を正確に予測できるだけではなく、
スイングした後に、「自分が打ったボール軌道(打球)」も正確に予測できます。
すなわち、自分の行ったスイングによって、
どのような打球結果が生じるかを事前に予測する力(結果予測)に優れています。
その打席でうまく打てることと、
打った後の打球を正確に予測できることは、
すでに終わった後の予測なので、一見無関係に見えます。
しかし、先行研究では、結果予測が高い時に打撃成績も高いことが示されています(Gray et al., 2007)。
では、なぜ打った後の打球を正確に予測できることが、
今、この瞬間の「打てるかどうか」と関係するのでしょうか?
これは、「内部モデル(Wolpert et al., 1998)」という脳の仕組みと関係があります。
人の身体は脳から筋に指令が送られることによって動きます。
この指令は筋だけでなく、内部モデル(小脳)にも送られます。
内部モデルは、この脳の指令を受け取ると、
身体(筋)が動くより先に、将来的な身体や環境の状態を一足先に予測します。
このような予測が打撃において有益である理由は、
「予測された結果に応じて、スイングの修正を行える」からです。
たとえば、スイングの途中で、
「このままでは詰まる」「当たらない」と内部モデルが予測した場合、
打者の脳はその情報をもとに、スイングを止めたり、
スイング軌道やタイミングを微調整したりすることができます。
言い換えると、正確に結果予測できる人ほど、
スイングを素早く調整してバットに当てる確率を高めることができます。
スイングは非常に高速で、
眼から情報を得てから修正していては間に合いません。
そのため、脳は予測に基づいて修正していると考えられます。
野球の打撃の結果予測を鍛えることは可能か?
という問いに直接答えた研究はありません。
ただし、ボール軌道の予測を鍛える知覚トレーニングと同じように、
予測と正解のフィードバックを繰り返す方法は有効と考えられます。
実際、怪物ベースボールでは、そのようなトレーニングコンテンツがあり、
結果予測が高まることが示唆されています。
Gray, R., Beilock, S.L. & Carr, T.H. (2007). "As soon as the bat met the ball, I knew it was gone": Outcome prediction, hindsight bias, and the representation and control of action in expert and novice baseball players. Psychonomic Bulletin & Review, 14, 669–675 (2007). https://doi.org/10.3758/BF03196819
Wolpert, D. M., Miall, R. C., & Kawato, M. (1998). Internal models in the cerebellum. Trends in Cognitive Sciences, 2(9), 338–347. https://doi.org/10.1016/s1364-6613(98)01221-2